不思議な体験

夏になると、怪談やオカルト系のメディア番組が増える。

私自身は、作業用BGMとして怪談朗読を愛用していたり、三木大雲和尚の怪談説法が好きなんで夏に限らず……って感じだけどね。

とはいえ、大概の人はオカルト系の話題や怪談をあくまでも外野視点でエンタメとして楽しんでるよね。うん、私もそうでした。

そんな私が、恐怖体験というよりも異世界を覗き見ちゃった不思議な話を思い出したから、書いてみます。

 

あれはもう20年近く前の初夏。

私は休日で金もなく、彼女も居なくて、暇を持て余してたから、特に目的地も決めずに中古で手に入れた軽自動車を、N県の県境付近の山道をだらだらと走らせてた。

道の両側に杉林が広がる山道。

交通量は少なく、木立の間から所々に陽光が射し込み、適度に風もあり窓を開けて走ると気持ちが良かった。

ふと、見遣ると右前方の杉林の中に少し拓けた場所があり、数人のご老人の姿が見えた。

長椅子に腰掛けて井戸端会議でもしているのか、頭に手ぬぐいを巻いて紫のベストを着た女性。茶色の上着を着た女性。農家風の白っぽいブラウスの女性……等々。

仲の良いご近所の奥様方が集まって休日のひと時を過ごしている……。そんな感じだった。

ただ、そこは民家の疎らな県境の山道。

こんな場所にあんな拓けた場所があっただろうか……?

私は車を停めて、確かめようと改めてそちらを見てみると、こじんまりとした墓地に長年風雨に曝されたであろう灰色の墓石が並んでいるばかりで、誰の姿も確認出来なかったし、紫だとか茶色だとか現代風の墓石も、そこには無かった。